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田んぼの相続はどうする?農地相続に必要な手続きや活用・処分方法とは

田んぼ
故郷 未来に残したい里山(田んぼは日本人の心)

相続する遺産に田んぼが含まれている場合、他の財産とは異なる手続きが必要です。また、田んぼの使い道がなく、相続しても放置するしかない人もいるでしょう。この記事では、田んぼの相続に必要な手続きや、相続した田んぼの活用・処分方法を解説します。

田んぼの相続に必要な手続き

田んぼを相続した際は、はじめに次の3つの手続きを実施しましょう。

1.相続登記で名義変更をする

相続登記とは、被相続人(亡くなった人)が所有する不動産の名義人を相続人に変更する手続きです。相続登記による名義変更は、法務局窓口または郵送で行います。オンラインからの申請も可能ですが、必要書類を別途郵送しなくてはいけない点に注意しましょう。田んぼの相続登記をする際は、法務局が公式サイトに掲載しているフローチャートの活用がおすすめです。相続の状況ごとに、するべきことがわかりやすく案内されています。

▼法務局のフローチャートはこちら

法務局:不動産の所有者が亡くなった

2.地元の農業委員会へ届出をする

田んぼの相続登記を済ませたら、地元の農業委員会へ届出をしましょう。田んぼなどの農地は国民の安定した食料供給における重要な土地であることから、一般的な住居と異なり農業委員会によって管理されています。相続や売買で農地の所有者が変わった場合、農業委員会への報告が義務づけられています(農地法第3条)。

農業委員会への報告は、田んぼの取得を知った日から10ヶ月以内に完了させなくてはいけません。期限を過ぎた場合、10万円以下の過料を課せられる場合があります。手続きは農業委員会の窓口で行えます。田んぼを管理する農業委員会がわからない人は、役所で確認しましょう。

3.相続税の納付猶予を確認する

田んぼなどの農地は、「農地等の納税猶予の特例」が適用される可能性があります。農地等の納税猶予の特例とは、相続した農地に対する一定の相続税の納付を猶予する制度です。ただし、当制度は、農地の相続人が農業を継続する場合のみに適用されます。相続した農地を売却したり、その他の用途に活用したりする場合は適用されません。当制度の対象となる人は、法務局の詳しい案内をご確認ください。

▼法務局:No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例

相続した田んぼの活用方法

相続した田んぼは、たとえ用途がなくとも固定資産税を納めなくてはいけません。田んぼを有効活用したいとお考えであれば、以下4つの用途を参考にしてみてください。

1.農業を引き継ぐ

1つ目の活用方法は、田んぼをそのまま農地として利用し農業を引き継ぐケースです。「農地等の納税猶予の特例」の要件を満たせば、農地に対する相続税の納付が猶予されます。また、多くの場合は農業を続ける限り納付猶予が続く上、相続人の死亡によって納税猶予税額が免除される仕組みです。被相続人の農業を継承したい場合、相続税の負担を抑えて農業経営を始められます。

2.他者に田んぼを貸し出す

田んぼを第三者に貸し出し、借主が新たに農業を始める方法も考えられます。賃料による収入が得られ、農作業の負担はかかりません。注意点として、他人に田んぼを貸し出す際は、農業委員会からの許可が必要です。農地法第3条に沿った農業委員会による許可がなければ、当事者間の契約には効力がありません。借主とトラブルが起きても農業委員会による仲介や救済は見込めないため、必ず許可をとりましょう。

3.農地バンクを利用する

田んぼの借主を自分で探すことが難しい人には、農林水産省が管轄する「農地バンク(農地中間管理機構)」の利用が向いています。農地バンクとは、農地の借主と貸主をつなげるサービスです。農業を始めたい人から田んぼを見つけてもらいやすいため、積極的に活用しましょう。加えて、オンライン上で空いている農地を検索できる「eMAFF農地ナビ(旧:全国農地ナビ)」への登録も効果的です。地元の農業委員会にeMAFF農地ナビへの登録を申し出ると、サイト上に自分の田んぼが掲載されます。

4.農地転用して別の用途に使用する

相続した田んぼを「農地転用」すると、農業以外の用途に土地を使えるようになります。農地転用とは、農地を住宅や店舗、道路といった農地以外の土地・建物へ変更する手続きです。農地転用すれば、自宅建設のほか、賃貸アパートや駐車場などの経営も可能です。ただし、以下のいずれかに当てはまる土地は、原則として農地転用ができません。

  • 第1種農地
  • 甲種農地
  • 農用地区域内農地

農地転用を申し込む際は、農業委員会へ申請書を提出します。農業委員会を通じて都道府県知事から許可をもらえれば、農地転用が認められます。なお、「市街化区域内」の農地であれば、農業委員会への届出だけで農地転用が可能です。

相続した田んぼの処分方法

相続した田んぼを活用せず、処分したい場合はどうすればいいのでしょうか。ここでは、田んぼの処分方法を4つ紹介します。

1.農地として売買・譲渡する

田んぼを農地のまま扱い、売買・譲渡して処分する方法です。田んぼをそのまま手放せるため、比較的簡単な処分方法と言えます。一方、農地として売買・譲渡するため、取引相手が限定されます。さらに、取引相手自身も、農業委員会から農地取得の許可を得なくてはいけません。たとえば、「適切な営農計画を持つ個人」や「法人は農地所有適格法人のみ」などの要件があり、すべての人が田んぼをスムーズに受け取れるわけではありません。

2.農地転用して売買・譲渡する

田んぼをあらかじめ農地転用すれば、農地のままよりも土地を売買・譲渡しやすくなります。農業関係者ではない人にも土地を売買・譲渡できるため、住宅を建てたい人や事業を拡大したい法人など取引可能な相手が広がります。ただし、農地転用が認められない場合もあるので、他の処分方法も合わせて検討しておきましょう。

3.「相続土地国庫帰属制度」で土地を国に返す

「相続土地国庫帰属制度」とは、相続した土地を国に返還し、その他の遺産を相続する制度です。相続土地国庫帰属制度を利用できる土地には、一定の要件があります。たとえば、「一定の勾配や崖がある土地」や「土壌汚染された土地」は制度を利用できません。制度を利用できる土地であれば、約10年分の管理費用を収めることで国に土地を引き取ってもらえます。

▼法務省:相続土地国庫帰属制度の概要

4.相続放棄する

相続放棄すると、田んぼを相続せずに処分できます。ただし、相続放棄すると田んぼだけでなく他の財産も取得できなくなる点に注意が必要です。したがって、相続放棄をおすすめできるのは以下のケースに限られます。

  • 遺産を相続したくない事情がある
  • 田んぼ以外に相続できる財産がない
  • 貯蓄などのプラスの遺産より、借金などのマイナスの遺産ほうが多い

上記に当てはまらないのであれば、土地の売却・譲渡や相続土地国庫帰属制度の利用といった方法で田んぼを処分しましょう。

相続した田んぼの用途による手続きの違い

田んぼなどの農地は農業委員会により管理されており、どのような用途であっても農業委員会への届出が必要です。一方、田んぼの用途によっては許可権者が異なる上、届出のみで許可が不要なケースもあります。用途による具体的な違いは、次の一覧表をご確認ください。

田んぼの用途区域必要な手続き
農地のまま売却・賃貸共通農業委員会の許可
農地転用して利用市街化区域内農業委員会への届出のみ(許可不要)
市街化区域外都道府県知事の許可
農地転用して売却・賃貸市街化区域内農業委員会への届出のみ(許可不要)
市街化区域外都道府県知事の許可

相続した田んぼを活用するメリット・デメリット

相続した田んぼを活用すると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれの具体例を見ていきましょう。

1.活用するメリット

田んぼを活用するメリットは、以下の通りです。

  • 農業を引き継げる
  • 農地を貸し出して収益を得られる
  • 農地転用で自宅や別荘を建てられる
  • 農地転用により駐車場や賃貸の経営ができる

相続した田んぼを所有していると、さまざまな活用が可能です。農地転用をすれば、農業だけでなく自宅建設や賃貸経営といった選択肢も生まれます。将来的に土地を活用して新たに事業を始めたい場合、処分せずに所有し続けるといいでしょう。

2.活用するデメリット

田んぼの活用には、次のデメリットが存在します。

  • 農地転用などの手続きが多い
  • 事業が失敗するリスクがある
  • 固定資産税や土地の管理負担がかかる
  • 耕作放棄地などの負の遺産になる可能性がある

田んぼを処分しないのであれば、雑草・害虫駆除やゴミの不法投棄対策などの管理が必要です。農業を辞めた際に土地の管理を怠れば、耕作放棄地として負の遺産になるリスクがあります。さらに、土地を活用して新たな事業を始める場合、失敗するリスクも考慮しなければなりません。

相続した田んぼを処分するメリット・デメリット

続いて、相続した田んぼを処分するメリット・デメリットを説明します。

1.処分するメリット

相続した得た田んぼを処分する場合、以下のメリットが得られます。

  • 売却金が手に入る
  • 固定資産税がかからない
  • 田んぼ管理の負担がない
  • 相続土地国庫帰属制度により他の遺産は相続できる

不要な田んぼを処分すると、金銭的負担や管理の手間を抑えられます。また、田んぼだけ不要なケースでは、相続土地国庫帰属制度により他の遺産のみ取得できます。田んぼおよび土地を活用する予定がない人は、相続後に放置せずすばやく処分したほうがいいでしょう。

2.処分するデメリット

田んぼを処分するデメリットは、次の通りです。

  • 土地を失う
  • 子どもに相続できる遺産が少なくなる
  • 将来的に土地を活用できる可能性を失う

田んぼ自体は不要でも、農地転用した土地を有効活用できる可能性があります。自分の子どもへ残せる遺産も少なくなり、田んぼの立地条件によっては処分しないほうがいいケースもあります。売却した田んぼを取り戻すことは困難なため、手放す前に「土地を失っても良いか」を慎重に検討しましょう。

まとめ

田んぼを相続する際は、相続登記による名義変更や農業委員会への報告を行いましょう。田んぼを活用する場合、農業の継続だけでなく農地転用も選択肢として考えられます。反対に、田んぼを処分したいのであれば、売買や譲渡、相続土地国庫帰属制度の利用といった方法で手放しましょう。