相続する遺産に山林が含まれていても、使い道がなく困る人は多いのではないでしょうか。山林は所有しているだけで固定資産税が発生する上、故人から引き継ぐ際は相続税を支払わなくてはいけません。すべての相続人が引き取りたくない山林がある場合、どのように対処したらいいのでしょうか。この記事では、山林の相続がいらないケースの対処方法を詳しく解説していきます。
いらない山林を「相続放棄」で処分するデメリット
すべての相続人が山林を引き取りたくない場合、相続前に処分する方法は「相続放棄」のみとなります。しかし、相続放棄は次の3つの理由によりおすすめできません。
1.すべての財産を相続できなくなる
相続放棄をすると、山林だけでなくすべての遺産を引き取れなくなります。そもそも相続放棄とは、被相続人(亡くなった人)の資産や借金といったプラス・マイナスの遺産を一切受け取らない手続きを意味します。そのため、山林のみの相続放棄はできず、金品や建物、土地といったすべての遺産の相続も諦めなくてはいけません。山林のほかにマイナスの遺産しかないケースをのぞき、基本は推奨できない方法です。なお、相続人が複数いたとしても、相続放棄自体は他の相続人の同意なしで実行できます。
2.生命保険に控除が適用されない
相続放棄をすると、亡くなった被相続人の生命保険の死亡保険金を得る際に相続税の控除が適用されません。死亡保険金は被相続人の財産ではないため、相続放棄をしても死亡保険金を受け取れます。しかし、税制上の死亡保険金は「相続によって取得したお金」と見なされ、相続放棄をしていても相続税が課せられる仕組みです。さらに、相続放棄をした人には死亡保険金の「非課税限度額」が適用されず、受け取る死亡保険金が少なくなる可能性があります。
ちなみに、生命保険金にかかる税金の種類は、「保険料の支払い人」「保険金の受取人」によって異なります。亡くなった人と保険料の支払い人が同じであれば相続税が課せられます。その他のパターンについては、国税庁の案内をご覧ください。
▼国税庁:No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
3.相続放棄をしても山林管理が必要な場合がある
2023年4月の民法改正(改正民法940条1項)により、「相続放棄した時点で財産を『現に占有』していなければ保存義務が発生しない」と改定されました。つまり、山林を手入れしたり使用したりしていない場合、相続放棄をすれば山林の保存義務が生じません。一方、山林を「現に占有」していると判断されれば、相続放棄をしても山林の保存義務を負います。したがって、相続人の代わりに財産を保存する「相続財産清算人」を選任するまでは、自身で山林を管理しなくてはいけません。
相続後にいらない山林を処分する方法
相続放棄を避ける場合、山林も含めてすべての遺産を相続することになります。相続後に山林を処分するためには、以下4つの方法を参考にしてみてください。
1.「相続土地国庫帰属制度」を利用する
「相続土地国庫帰属制度」とは、いらない山林を国に引き取ってもらえるシステムです。近年、土地を相続したものの活用方法がなく、放置されてしまう事例が増えています。こうした土地は「所有者不明土地」となるリスクの対策として、相続土地国庫帰属制度が令和5年(西暦2023年)4月27日から始まりました。
相続土地国庫帰属制度の手続きは、山林がある都道府県の法務局で申請します。当制度の適用が承認された際は、10年分の土地管理費を支払います。なお、当制度はすべての土地が対象になるわけではなく、以下のように対象外になる可能性もある点に注意しましょう。
相続土地国庫帰属制度の対象にならない場合がある土地 | |
利用を申請できない土地 | 申請後に承認されない可能性がある土地 |
建物がある土壌汚染されている境界が定まっていない所有権などの争いがある他人が利用する予定がある担保権・使用収益権が定めらている | 一定の勾配や崖があり管理負担が重くなるその他の理由により管理負担が重くなる土地の管理・処分を妨げる物が地上にある土地の管理・処分のために除去が必要な物が地下にある隣接する土地の所有者と訴訟しなければ管理・処分できない |
(法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」より作成)
2.森林組合や山林売買サービスに依頼する
山林を不動産に売ろうとしても、一般的な住宅向けの不動産は山林売買には対応していないケースが多いです。山林の売買に特化した「山林売買サービス」に依頼することで、いらない山林のすばやい引き渡しが期待できます。また、山林の所有者や林業事業者が参加する「森林組合」への相談もおすすめです。事業のために山林を買いたい・借りたい人からの相談も受け付けているため、山林の売却先を紹介してもらえる可能性があります。
3.近隣の山林管理者に相談する
山林の処分方法として、相続する山林の近くにある山林管理者に相談する方法も考えられます。林業やキャンプ地などの事業拡大のため、近隣の山林管理者は新たな土地を必要としている場合があります。事前に土地の面積や境界を測量しておくと、円滑な相談が可能です。山林管理者が取引に応じてくれたら、売買または無償の譲渡といった引き渡し方を決めましょう。
4.自治体に寄贈する
自治体によっては、いらない山林を寄贈できます。しかし、自治体が有効活用できる山林の条件は限られており、引き取ってもらえるケースは非常に限定的です。自治体への寄贈はあまり期待せず、ここまで紹介した3つの処分方法から取り組んでみてください。寄贈の見込みがある土地であれば、自治体の窓口で相談しましょう。相談する際は、土地の測量図や課税明細書、山林の写真、登記事項証明書などの書類を持参するとスムーズです。
いらない山林を処分するかの判断基準は?
相続した山林をいらないと思っていても、実は処分しないほうがよいケースも存在します。山林を処分するか迷う場合、次の2つの判断基準に照らし合わせてみてください。
1.山林や土地の活用方法
山林やその土地に活用方法がある場合、収益を得られる可能性があります。具体的には、以下の活用方法が挙げられます。
- 農園
- 別荘地
- キャンプ場
- 太陽光発電
- レクリエーション施設
- 林業事業者への貸し出し
こうした活用方法により収益を期待できるのであれば、早々に処分してしまうのは惜しいでしょう。不動産会社などの各種事業者に相談し、慎重に検討してみてはいかがでしょうか。
2.山林管理の負担
山林の活用方法だけでなく、山林管理の負担も考える必要があります。たとえば、山林には固定資産税がかかるため、毎年必ず税金を支払わなくてはいけません。相続放棄をせずに山林を所有することから、保存義務も生じます。たとえば、山林の土砂崩れなどの事態を防ぐための維持管理費が発生するでしょう。また、山林の所在地が遠いほど、管理の手間はかかります。こうした「費用や管理の手間」と「活用方法で得られる利益」を比較し、処分するかを判断しましょう。
まとめ
いらない山林が遺産に含まれていても、山林のみの相続放棄はできません。相続放棄をしてしまうと他の財産も引き取れないばかりか、生命保険の控除も適用されなくなります。いらない山林は一旦相続し、「相続土地国庫帰属制度」や山林売買サービスを利用して手放すといいでしょう。山林にキャンプ場などの活用方法がある場合、処分せずに所有し続けるパターンも考えられます。